着脱銃床中毒（５）
モーゼルＣ９６ シュネルホイアー（M７１２）
私、ルイス・ケインは、知り合いの弁護士メランの依頼でアメリカ人の実業家マガンハルト氏を車でフランスからリヒテンシュタインまで送りとどけることになった。マガンハルトはビジネス上の厄介事に巻き込まれているらしい。・・・・・・
「あー、そのネタか。」と思われた方も多いでしょうね（笑）。
イギリスの作家、ギャビン・ライアルの名作、「深夜プラス１」（早川文庫 ISBN4-15-071051-1）：原題「MIDNIGHT PLUS ONE」、未読の方はぜひお読みください。このページをお訪ね下さった方なら、まず、失望される心配は無いと思います。
一行は追っ手の襲撃をかわしながら、ヨーロッパ大陸を駆け抜けます。時代設定は１９６０年代の前半。第二次世界大戦がようやく過去の出来事になろうとしている頃です。物語の冒頭、パリで行われるファッション・ショーの会場に姿を現す主人公・ケインはナチス・ドイツとの戦いでその名をうたわれた闘士としての自分、”カントン”という当時の通称に今もこだわっています。道中起こるさまざまなトラブル、彼らと関わる多彩なキャラクター、フランスからスイス、そして目的地リヒテンシュタインに至る各地の情景描写のみごとさ、そして意外な展開とラストシーン・・・（以下、自粛）
とにかく文句なく面白い。登場人物達の人間像も魅力的です。
さて、物語の中で主人公のカントンことルイス・ケインが鞄の中に忍ばせているのが、モーゼル軍用拳銃C96のシュネルホイアー（高速射撃）、アメリカではM７１２と呼ばれている銃です。
モーゼル軍用拳銃は１９世紀末から第二次世界大戦にかけて、多数のバリエーションが生み出されましたが、モーゼル社は何故かこれらに対して独立したモデルナンバーや製品名称を与えることをしませんでした。そのため、フルオート射撃が可能なM７１２のような、もともとのC９６からは別モデルに見える製品でさえ、社内的にはC９６拳銃のどこそこ向け仕様、と呼ばれていたそうです。
モーゼル軍用拳銃ははじめ、開機したイジェクションポートから同社のKar９８小銃と同様に装弾クリップを使用してフレームに固定されたマガジン内に実包を押し込む機構を採用していました。M７１２が開発された時代、１９３２年には、BOXマガジンのパテントが使用できるようになっていたので、他の自動拳銃と同様にBOXマガジンを使用しますが、クリップを使用した装弾も可能な構造になっています。
BOXマガジンはすばやく交換できると同時に寸法を延長して装弾容量を増加させることが可能です。フルオート射撃可能なM７１２はフレームのサイズに合わせた１０連マガジン以外に２０連マガジン（文献によっては３０連も少数製造されたと言われる）が存在しました。ただ、長いマガジンは装着したままでは銃をホルスターに収める事はできませんね（笑）。
大きなモーゼルをショルダーストック・ホルスターに収めて持ち歩くケインが、同行するガンマンのハーヴェイ・ロヴェルから、「トレーラーで引っ張ってゆくつもりか？それとも貨物列車で先に送っておくのか？」とからかわれるくだりが有名です（ハーヴェイはS&W製３８口径５連のスナブノーズを携帯しています）。徹底した現実主義者であるプロの、自分の命を託す銃に対する互いに譲れないこだわりがどこかおかしい、そんなシーンでした。
写真はマルシンのモデルガンです。樹脂製、金属製の２種類が今も入手可能です。２０年程前にまず樹脂製が発売されました。一部、ブローバック作動のためのアレンジがありますが、内部のメカニズムを忠実に再現しています。それに、嬉しいことに着脱可能なショルダーストック・ホルスターと２０連マガジン、そしてストック・ホルスターに付けるベルトが発売されました。
金属モデルが出たのは、１９９４年頃でしょうか？この時にはストック・ホルスターを収める革製のハーネスも発売されました。ハーネスは、予備スプリングを入れるポケットとクリーニング・ロッドを収めるポケットとが付いています。見るからに大袈裟。ルガーのストック・ホルスターもそうですが、この重厚さ、ごちゃごちゃとしたスタイルが１９世紀の空気を今に伝えてくれ、ロマンティックな雰囲気に浸ることができます。
マルシンのハーネスにはクリーニング・ロッドが付いていなかったので、工具屋で売っていたヤスリの柄と真鍮棒でそれらしい物をでっち上げてあります（笑）。
ストックを装着して射撃する時、ベルトはストックに付けたままでよいのですが、ハーネスの場合はストックをハーネスから取り出さなければなりません。ロシアの兵隊や満州の馬賊は簡単なベルト式を好んだ、という話も肯けますね。隠居は嫌いですけど（笑）。
モーゼル軍用拳銃は、ロシアと中国大陸で活躍したことが知られています。写真の金属製モデルガンの、ちょうどマガジンが入る部分に”徳国製”と刻印されているのが、中国大陸に輸出された製品の印です。”徳国”とは、ドイツを意味します。
モーゼルのM７１２は、このマルシンのモデルガンの他に、マルイの組み立てキット、フジミ模型のエアーソフトガンが発売されました。同社はアクセサリーとしてストック・ホルスターも出していました。また、この製品はエアーソフトガンとしては旧世代の製品で今日のブローバック式エアソフトガンではないのですが、BB弾の発射と同期してボルトの後端が後退・復帰するギミックが内蔵されていました。ストックもマルシン製に劣らない出来のよいものでした。
(2000/02/23)
第参船体に戻る
「あー、そのネタか。」と思われた方も多いでしょうね（笑）。
イギリスの作家、ギャビン・ライアルの名作、「深夜プラス１」（早川文庫 ISBN4-15-071051-1）：原題「MIDNIGHT PLUS ONE」、未読の方はぜひお読みください。このページをお訪ね下さった方なら、まず、失望される心配は無いと思います。
一行は追っ手の襲撃をかわしながら、ヨーロッパ大陸を駆け抜けます。時代設定は１９６０年代の前半。第二次世界大戦がようやく過去の出来事になろうとしている頃です。物語の冒頭、パリで行われるファッション・ショーの会場に姿を現す主人公・ケインはナチス・ドイツとの戦いでその名をうたわれた闘士としての自分、”カントン”という当時の通称に今もこだわっています。道中起こるさまざまなトラブル、彼らと関わる多彩なキャラクター、フランスからスイス、そして目的地リヒテンシュタインに至る各地の情景描写のみごとさ、そして意外な展開とラストシーン・・・（以下、自粛）
とにかく文句なく面白い。登場人物達の人間像も魅力的です。
さて、物語の中で主人公のカントンことルイス・ケインが鞄の中に忍ばせているのが、モーゼル軍用拳銃C96のシュネルホイアー（高速射撃）、アメリカではM７１２と呼ばれている銃です。
モーゼル軍用拳銃は１９世紀末から第二次世界大戦にかけて、多数のバリエーションが生み出されましたが、モーゼル社は何故かこれらに対して独立したモデルナンバーや製品名称を与えることをしませんでした。そのため、フルオート射撃が可能なM７１２のような、もともとのC９６からは別モデルに見える製品でさえ、社内的にはC９６拳銃のどこそこ向け仕様、と呼ばれていたそうです。
モーゼル軍用拳銃ははじめ、開機したイジェクションポートから同社のKar９８小銃と同様に装弾クリップを使用してフレームに固定されたマガジン内に実包を押し込む機構を採用していました。M７１２が開発された時代、１９３２年には、BOXマガジンのパテントが使用できるようになっていたので、他の自動拳銃と同様にBOXマガジンを使用しますが、クリップを使用した装弾も可能な構造になっています。
BOXマガジンはすばやく交換できると同時に寸法を延長して装弾容量を増加させることが可能です。フルオート射撃可能なM７１２はフレームのサイズに合わせた１０連マガジン以外に２０連マガジン（文献によっては３０連も少数製造されたと言われる）が存在しました。ただ、長いマガジンは装着したままでは銃をホルスターに収める事はできませんね（笑）。
大きなモーゼルをショルダーストック・ホルスターに収めて持ち歩くケインが、同行するガンマンのハーヴェイ・ロヴェルから、「トレーラーで引っ張ってゆくつもりか？それとも貨物列車で先に送っておくのか？」とからかわれるくだりが有名です（ハーヴェイはS&W製３８口径５連のスナブノーズを携帯しています）。徹底した現実主義者であるプロの、自分の命を託す銃に対する互いに譲れないこだわりがどこかおかしい、そんなシーンでした。
写真はマルシンのモデルガンです。樹脂製、金属製の２種類が今も入手可能です。２０年程前にまず樹脂製が発売されました。一部、ブローバック作動のためのアレンジがありますが、内部のメカニズムを忠実に再現しています。それに、嬉しいことに着脱可能なショルダーストック・ホルスターと２０連マガジン、そしてストック・ホルスターに付けるベルトが発売されました。
金属モデルが出たのは、１９９４年頃でしょうか？この時にはストック・ホルスターを収める革製のハーネスも発売されました。ハーネスは、予備スプリングを入れるポケットとクリーニング・ロッドを収めるポケットとが付いています。見るからに大袈裟。ルガーのストック・ホルスターもそうですが、この重厚さ、ごちゃごちゃとしたスタイルが１９世紀の空気を今に伝えてくれ、ロマンティックな雰囲気に浸ることができます。
マルシンのハーネスにはクリーニング・ロッドが付いていなかったので、工具屋で売っていたヤスリの柄と真鍮棒でそれらしい物をでっち上げてあります（笑）。
ストックを装着して射撃する時、ベルトはストックに付けたままでよいのですが、ハーネスの場合はストックをハーネスから取り出さなければなりません。ロシアの兵隊や満州の馬賊は簡単なベルト式を好んだ、という話も肯けますね。隠居は嫌いですけど（笑）。
モーゼル軍用拳銃は、ロシアと中国大陸で活躍したことが知られています。写真の金属製モデルガンの、ちょうどマガジンが入る部分に”徳国製”と刻印されているのが、中国大陸に輸出された製品の印です。”徳国”とは、ドイツを意味します。
モーゼルのM７１２は、このマルシンのモデルガンの他に、マルイの組み立てキット、フジミ模型のエアーソフトガンが発売されました。同社はアクセサリーとしてストック・ホルスターも出していました。また、この製品はエアーソフトガンとしては旧世代の製品で今日のブローバック式エアソフトガンではないのですが、BB弾の発射と同期してボルトの後端が後退・復帰するギミックが内蔵されていました。ストックもマルシン製に劣らない出来のよいものでした。
(2000/02/23)
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